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仕入屋錠前屋54 果たされる約束 2

「すげえ、可愛い。どうしよう秋野!!」 「少し落ち着け、耀司」  耀司はこちらが見ていておかしくなるくらい動揺していて、真菜は本気で笑ってしまった。  男三人に付き添われてドレスを試着する女の子はあまりいないのだろう […]

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仕入屋錠前屋54 果たされる約束 1

 結婚してくれと言われた。  人生で二度目のプロポーズは、一度目と同じ人からだった。  いつも優しい耀司の強張った顔に緊張を感じて、笑いそうになる。おかしかったわけではなくて、これもまた緊張の表れなのだろう。 「約束 […]

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仕入屋錠前屋53 共鳴 3

 仙田の部屋の前に辿り着いたときには、葛木も仙田も大分息が上がっていた。ぜえぜえと喉を鳴らして無様な呼吸を繰り返しながら、鍵を開ける仙田の後姿をぼんやり眺めた。  膝に微かな痛みがあったが、多分明日には治るはずだ。速 […]

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仕入屋錠前屋53 共鳴 2

「ちょっと葛木何その顔!?」  仙田の素っ頓狂な声に、周囲の視線が一気にこちらに向けられた。  海外のロッカーのようななりの仙田と、顔と手が絆創膏だらけの葛木から、集まった視線が今度は一斉に逸らされる。どうせろくでも […]

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仕入屋錠前屋53 共鳴 1

「なあ、お前何で刺青なんか入れてんだ?」  葛木が訊くと、仙田は嬉しそうににっこり笑った。  仙田が年下だと言うのは——それも三つも——前に聞いたが、どうにも納得しにくいものがある。  それは仙田が大人っぽいと言うの […]

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仕入屋錠前屋52 うそつきの挨拶 6

 枕元の可愛らしい籠に手を伸ばした哲が、試供品のような小さな袋を手にとって歯で引き裂いた。破れた透明な小袋から粘性の液体が秋野の腹に垂れ、冷たさに一瞬皮膚が粟立つ。哲は更にもう一つ袋を破り、液体を掌で受けた。哲の濡れ […]

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仕入屋錠前屋52 うそつきの挨拶 5

 王琳可を、哲にはしっくりしない女だと思った。  阪田寛恵がもしも普通の状態なら、多分それなりに似合いだと思った。  レイから電話を貰い、合流した。レイを帰して一人になると続けざまに溜息が出る。  正直気乗りがしない […]

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仕入屋錠前屋52 うそつきの挨拶 4

 琳可は泣いたが、涙の味は些か微妙に違いない。恋人を失ったというより同郷の友人を失ったというのに近いのかも知れない。肩をさする楊の存在もあるのだろうが、それにしても彼女はたくましいと秋野は思う。  琳可の細い身体は少 […]

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仕入屋錠前屋52 うそつきの挨拶 3

「いいねえ、若いってえのは」  ナカジマの声は、そのシャツと同じくらい陽気だった。  茄子紺の地に提灯や金魚、狐の面やりんご飴。要するに祭がモチーフらしいその柄は、とにかく目に優しくない配色だ。このヤクザの服装の酷さ […]