その笑顔は神か悪魔か幻か 20
「一週間の在宅勤務?」 鸚鵡返しした俺に、嘉瀬さんは頷いた。 「そうだ。つーか佐宗お前、声がひっくり返ってるぞ」 「いや、だって──」 「だっても何もねえ」 「どうやって営業すんです!」 思わず言うと、嘉瀬さんは […]
その笑顔は神か悪魔か幻か 19
トイレットペーパーを抱えててもいい男だから頭にくる。 俺に睨みつけられた嘉瀬さんは、俺の渾身のガン付けに何故かだらしなくにやにやした。 「何笑ってんですか」 「いや、何でもねえよ」 片手にトイレットペーパーのパ […]
その笑顔は神か悪魔か幻か 18
「た、だ、い、まー!」 突然重たいものが腹の上にどっかり乗っかってきた。 俺は勢いよく跳ね起きかけ、圧し掛かってきたその重さに負けて仰向けにぶっ倒れた。 「何だ!?」 「高橋、ただいま戻りましたあ!」 深夜の寝 […]
その笑顔は神か悪魔か幻か 17
「そういうわけだから」 「何ですか、その手抜き感満載の台詞は。謝罪ですか、それとも宥めようとしてるんですか、部長」 プレゼン用のタブレット端末を盾のように顔の前に掲げたまま、佐宗は不機嫌な声で吐き捨てた。 吐き捨 […]
その笑顔は神か悪魔か幻か 16-2
フレッド君とともに、俺は新居へ引っ越した。 高級で、シンプル且つモダンで洗練されたマンション。 外観はそんな感じだが、俺の入居する先にはきちんと生活感と温かみがある。 多分有名なメーカーの家具。手触りだけで高 […]
その笑顔は神か悪魔か幻か 16-1
なんと、六日も我慢した、と、快哉を叫びたい気持ち半分。 たった六日かこの意気地なし、と、自分を殴りたい気持ち半分。 この場合どっちがより正しい感想かは置いておくとして、とにかく俺はそういう心境だった。 七日目 […]
その笑顔は神か悪魔か幻か 15-2
バスタオルで頭を拭きながら戻ってきた嘉瀬さんは、ネクタイと上着以外の昨日の衣服を身に着けた。泊まったのだから当然だが、俺は何となく後ろめたくて、寛げられた襟元から目を逸らした。 嘉瀬さんの家には、ほんの少しではあ […]
その笑顔は神か悪魔か幻か 15-1
俺は正直困っていた。 困り果てていた、と言ってもいい。 目の前に嘉瀬さんの喉がある。嘉瀬さんの匂いがする。 ここは、俺のベッドだというのに。 「一遍その頭を外して洗って付け替えろ! […]
その笑顔は神か悪魔か幻か 14-2
シャワーを浴びて居間に戻ると、多岐川の姿は既になかった。客用にしている部屋に引っ込んだのだろう。多分今頃は夢の中だ。 居間の照明を落として寝室に足を向ける。椅子の上に置いてあった携帯が青い光を明滅させていることに […]
その笑顔は神か悪魔か幻か 14-1
「……考え直すべきだと、俺は思うけどね」 常識と良識に裏打ちされた真っ当な意見。静かに落ちたその言葉に、筋の通った抗弁はできない。 だが、首肯しかねることもまた事実だった。 一年前なら、多少なりとも迷ったかも知 […]