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浴衣

 その日は季節外れの真夏日だった。暦の上では秋だというのに、ここ二日ほどはまるで季節が戻ったように気温が高い。温暖化の影響なのか、台風のせいかなのかは分からない。  そんな日に限って現場は全面ガラス張り。西日がもろに […]

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ユズキクリーンサービス 10-2

 押し込められた車はタクシーとしてもたまに見かけるミニバンで、色は白。ぴかぴかでもなければ薄汚れてもいない。スモークガラスにもなっていないので、却って怪しさは皆無だった。 「新海さん、大丈夫っすか!」  運転席から振 […]

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ユズキクリーンサービス 10-1

「……お帰り」  柚木は珍しく眠たげに目を瞬き、枕に頬をつけたまま新海を見上げた。  何でここにいるんだとか、何でお前の部屋でもないのにお帰りなのだとか、そんなことは別にどうでもよかった。 「ただいま」  囁きながら […]

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ユズキクリーンサービス 9

 今日の現場はやたらと暑く、すべて終わる頃には、柚木は汗だくになっていた。  天気がよくて外気温が高かったせいもあるが、窓がでかかったせいもある。  リビングルームの南西面が上から下までのガラス張りになっていて、射し […]

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2018 ハロウィン

「Trick or treat!」  ドアの向こうから完全にネイティブの発音で決まり文句が聞こえてきたので、新海はパソコンから顔を上げ、声を張り上げた。 「開いてるから勝手に入れ。つーかハロウィンは明日じゃねえのか」 […]

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ユズキクリーンサービス 8-2

 車を戻した新海が管理人室の中で無駄にうろうろ歩き回りながら待つこと一時間ほどで、ようやく岡本が戻ってきた。  柚木のことを心配していないわけではないのは顔色を見れば分かるし、洗いざらしの髪も、岡本が急いで戻ってきた […]

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ユズキクリーンサービス 8-1

 湾岸地域にある人気のない倉庫が今日の現場だった。  漁港付近ならともかく、工場、それも稼働が止まった工場が多い区画だ。早朝のこの時間、人通りは皆無と言ってよかった。  カモメがやたら上空に見えるのは、どこかに水揚げ […]

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ユズキクリーンサービス 7

 母も姉もいたから、どちらかと言えば新海は、家族の中では父同様、世話を焼かれる側だった。  付き合う女はどちらかと言わなくても自立していて手がかからないというタイプばかりで、こちらでも機会はなかった。自己分析したこと […]

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ユズキクリーンサービス 6

 ある日新海がコンビニから管理人室に戻ったら、知らないおっさんがソファに長々と寝そべっていた。 「……失礼ですが、どちら様ですか?」  おっさん、とは思ったが、それは単に年齢が上であるというだけの話で、外見──例えば […]

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ユズキクリーンサービス 5

「新海さん!」  バンのドアが開いて、バラクラバ帽をかぶった男が新海を呼ばわった。 「何だ、どうした」 「すんません、申し訳ないんですけど、手ぇ貸してもらえないっすか」  顔は見えないが、声で岡本だと分かった。新海は […]