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knowing 3

 ああ、なんてことだ。原田は心底そう思った。  今までの人生、逆境を乗り越えてこそ成長があると思ってきた。勿論自ら喜んで飛び込みはしないが、そういう状況に置かれることがあれば文句は言わず、ひたすら立ち向かってきた。 […]

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リビングルーム

 うなじに食いつきながら名前を呼ぶと、静は、震えながら甘ったるい声を漏らす。  だが、マゾっ気があるかというとそれは違って、やり過ぎると喜ぶどころかぶん殴られる。ついこの間うっかり力を入れ過ぎて流血させてしまった時は […]

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knowing 2

 ぼんやりしていたら突然顎を掴まれた。 「──何考えてんだ、和伊」 「別に……っ」  舌全体を擦り合わされるようにされ、ぬるりと滑るその感触に身体が震えた。投げ出されたままの和伊の指に指が絡みつく。忙しない呼吸の合間 […]

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knowing

 会話している乗客は少ないのに、なぜか感じるざわめき。高く細いヒールがホームに降り立つ硬い音。吊革が軋む音。  そんな音に混じって、どこ遠くから、アナウンスが聞こえる。  井川はぼやけた頭でそう思った。  よほど深く […]

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迷い家 3

 鳩尾まで捲くれ上がっていたTシャツを更に押し上げ、唇を落とす。当然ながら平らな胸に、しかし嫌悪感は湧かなかった。唇と舌と歯で愛撫する。モリシマは呻き、胸を波打たせた。 「冗談にしちゃひでえだろこれ……っ」 「真面目 […]

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迷い家 2

 大の男が二人詰め込まれると、流石にシングルの部屋は狭かった。  部屋にあったリーフレットによると通常よりやや広い幅が売りらしいベッドは確かにそれなりに大きかったが、それ以外が妙に狭くて小さかった。今時のビジネスホテ […]

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迷い家 1

 気がついたら、池袋駅の雑踏の中、男はずっと俺の前を歩いていた。  濃紺のウィンドーペーンのスーツ、ダブルの裾。焦げ茶のビジネスバッグと左肩のショルダーバッグ。  あれだけの人混みの中で目に付いたのは、スーツや小物や […]

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リアル

 別れは、いつだって悲しい。永遠に続くものなんかなくて、恋はいつも不確かだけれど。  彼女の香水の匂いとか、いつも食べるパンとか、好きなケーキの名前とか。  俺の中で炸裂するいくつもの感情は、吹き出る前に細かく千切れ […]

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群青走駆 10

「同じことだろ」  ヴァレリーの声は僅かに震えていたが、それが何故なのか、カエンにはよく分からなかった。掴んだ腕の筋肉は固くこわばり、ヴァレリーの緊張を表している。 「何が?」 「あんた、何言ってんの。俺が殺そうが、 […]

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群青走駆 9

 ロザリーヌは夕食を用意する、と言ってカエンを空き部屋のひとつに押し込めた。ヴァレリーはおとなしくしているのか、今のところ廊下の端から騒ぎは聞こえてこない。手持無沙汰でうろうろ歩き回っていたらドアが開いた。振り返ると […]