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仕入屋錠前屋30 風化させないで 2

 土橋がタクシーに告げた先は、小さな料理屋だった。創作和食、と書かれた看板はモダンな雰囲気で、土橋の年齢よりは若者が好みそうにも見えたが、店の主人は土橋くらいの年齢だった。娘がそういった方面のデザイナーだとかで、わざ […]

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仕入屋錠前屋30 風化させないで 1

 体に纏わりつく線香の香りは、嫌いではなかった。縁起のいいものではないが、その香りはどこかしら安心感を伴う。半分異国の血が流れていても、日本以外で暮らしたことはない。言葉がいくつ使えても、今は頭の中まで日本語だ。遺伝 […]

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仕入屋錠前屋29 ヨハネの再来 4

 ヨアニスと連絡が取れたのは翌日すぐだったが、月曜日、ヨアニスは本来の目的である視察のために多忙だった。秋野としては別に構わなかったが、耀司が煩く言うので電話をかけてみただけだ。哲には特に連絡していないが何も言ってき […]

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仕入屋錠前屋29 ヨハネの再来 3

 嫌な予感はした。哲は目の前のグラスに浮かぶライムの薄切りを睨みつけながらそう思った。透明な酒に浮かぶ緑色は、ガラス越しに歪んで見える。哲の視線に負けたのか、不意に崩れた氷の上で、ライムは危なっかしく左右に揺れ、おか […]

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仕入屋錠前屋29 ヨハネの再来 2

「いやぁーん、二人とも久し振りぃ~!」  嬌声は、余りにも野太く、さすがに哲も笑うしかなかった。声の主は、今日は首周りにぎらぎら光るスパンコール付きの服を着て、その白い服のお陰でより一層膨張して見える。太っていると言 […]

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仕入屋錠前屋29 ヨハネの再来 1

 ヨアニス。  耳に馴染まないその響きは、ギリシアの名前だそうだ。目の前に立つ人物にギリシア人を思わせる部分は殆どない。欧米人と付き合いがない哲には、彼はアングロサクソンそのものに見える。だが、正直言って白人は区別が […]

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仕入屋錠前屋28 のぼりくだりの階段

 ざわざわと、それを追って毛穴が開く。  血管の中を勢いよく流れる有害な物質。朝、最初に吸う煙草の中の、明らかに体を毒する微細な何か。肺に吸い込んだ煙が血液に溶けて体中を巡り出す、その一瞬。流れる毒の道筋のままに、肌 […]

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仕入屋錠前屋27 さすらい鳥 3

 秋野の黒い髪が風に揺れる。肌を刺すように冷たい風は、時折建物の間で渦巻くようにしながら吹き抜ける。長身を風に晒して立つ秋野は、どこか普通と違って見えた。  何が、とは言えない。目の色以外は決定的に周囲と違うこともな […]

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仕入屋錠前屋27 さすらい鳥 2

「ごめんねえ、ありがとう」  エリは相変わらずの格好で、やたらと尻を振る歩き方で現われた。女がすればそれなりに目の保養かもしれないが、エリの硬そうで平らな臀部を幾ら振られても哲はげんなりするばかりだ。  無言で促すと […]

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仕入屋錠前屋27 さすらい鳥 1

 右腕に人間をへばりつかせて現われた秋野に、哲は思わず吹き出した。  その人物の格好もさることながら、それをぶら下げた秋野の顔が、これ以上ないと言う位渋い表情だったからだ。  恐らく笑われることを予期していたであろう […]