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37 攣った

「いっ……!!」  暗がりの中に哲の呻き声と罵声が響き、秋野はベッドサイドの照明に手を伸ばした。  ぼんやりとした灯りの中に哲の物騒な表情を浮かべた横顔が浮かび上がる。その辺の子供なら泣いて逃げ出しそうな形相だ。 「 […]

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36 黒いうさぎ

 哲の居所を探し当て、その姿を見つけて、秋野は思わず立ち止まった。  秋野から離れること数メートル。  哲は、床にしゃがんで陳列棚の商品を眺めていた。眼光鋭く、ヤンキー座り。一体どんな物体に因縁をつけようとしているの […]

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35 かわいい

 うんざり。  哲の気分を表すには、その一言が相応しかった。  酒があって飲み食いできるのはいい。しかし、まず立食というのが気に食わない。じいちゃんに立って飲み食いしていいのは縁日とかなんとか、そういう場所だけだとし […]

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34 あたたかくして、食って寝ろ

 一週間で戻るつもりが十日、二週間と仕事が延び、十七日目にして秋野はようやく自分の住まいに辿りついた。  自分が責任を負う荷の手配だけなら予定どおり一週間で済んでいた。それなのに、依頼人の手違いから発生した諸々の問題 […]

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33 幸せ 服部Ver.

 ある晴れた平日の午後だった。  俺は客先での打ち合わせを終えて、取引先の事務所に寄ろうと中道を通っていた。 「あ、服部です。お世話になっております──はい、はい。あと五分くらいでお伺いしますので。では、後ほど」   […]

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32 コンビニスイーツ

「なあ、これ食わねえ?」  哲が秋野の膝の上に置いたのは、透明なプラスチック容器に入ったコンビニスイーツだった。黒糖わらび餅なんたらという商品名の入ったシールが貼ってある。名前のとおり、黒っぽいゼリー状のものの上にク […]

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31 お日様の匂い、洗濯物

 これは幻だろうか。  秋野は困惑し、子供がするようにぎゅっと目を閉じた。確かに疲れてはいる。仕事で数週間留守にしていたからだ。哲に伝えた予定より数日遅く戻ったのだが、幻覚を見るほどのひどい疲労でもない。  もう一度 […]

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30 雨音

 雨が激しく屋根を叩き、秋野は思わず天井を見上げた。  この建物は元々工場で、その後はダイニングバーに改装されるはずが頓挫したものを地べたごと買い取ったものだ。  工場だっただけあって堅牢だし、住居としての機能も必要 […]

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29 死神

 哲がシャワーを浴びて脱衣所から出てきたら、ちょうど中二階のドアが音もなく開いたところだった。  哲がいないと思っているとき、秋野はほとんど音を立てない。音楽をかけないとかそういう意味ではなくて、ドアを開閉するような […]

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28 ご飯かお風呂かそれともあたし

「ただいま。起きてたのか」 「よう」  その日秋野は予定よりかなり遅く帰宅した。もっとも、伝えたからと言って哲が秋野の予定に行動を左右されることはない。だからとっくに眠っているだろうと思ったが、哲はまだ起きていて、で […]