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仕入屋錠前屋47 真夜中の邂逅 4

 秋野に連れられて例の雑居ビルに足を踏み入れたのは三日後の昼間だった。どの店も閉まって半日、人通りが少ないこの時間のこの辺りはやけにのどかで、別の場所のように静かだ。こんな街中をどこから来たのか通り過ぎる猫を見て哲が […]

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仕入屋錠前屋47 真夜中の邂逅 3

「大体、雨が降ってるってのに何で急がないかね、お前は」  部屋についた途端に風呂場に押し込まれて強制的に湯をかけられた。一頻り罵って蹴飛ばしたら呆れたように肩を竦めて消えたから帰ったものだと思っていたら、床に敷いたマ […]

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仕入屋錠前屋47 真夜中の邂逅 2

 結局澄子の旦那が現れたのは占いと称した雑談を暫く続けた後だった。ファーストフードを出たところに停まった車の中、六十がらみの男はダブルのスーツを着こなしていた。  澄子の説明に頷くと哲に会釈し、感じよく微笑む。ヤクザ […]

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仕入屋錠前屋47 真夜中の邂逅 1

 運命とは、何だ。  生き死にか、それとも出会いか。   「ねえ、あんたの未来、占ってあげようか」  仕事を終えて店を出た哲にそんな声が掛ったのは土曜の夜、日付も変わって暫く経った頃だった。  給料日前の土 […]

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仕入屋錠前屋46 傷ついたままでいい 3

 秋野の手はまるで金属の金具か何かのように哲の腕を締め上げて、離れなかった。秋野のシャツを巻きつけた上から痛いほど握られる、それが圧迫止血をしているのだというのに気付いたのは、輪島が「秋野、もういいよ」と言ったからだ […]

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仕入屋錠前屋46 傷ついたままでいい 2

「今ねーカレー食べてます!」  秋野は携帯から聞こえてくる仙田の声に思わず笑ってしまい、仙田は仙田でそれが嬉しいのかこちらも笑った。隣では葛木が仏頂面をしているのだろう。容易に二人の姿が想像出来る。秋野は笑いながらテ […]

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仕入屋錠前屋46 傷ついたままでいい 1

 ドアを開けたら灰皿が目の前を飛んで行った。  哲の後ろの男がああっ!? と、その生業にしては些か情けない声を上げた。部屋の中から逆に凄みの効いた大音声が突風のように吹き付けて、本気でよろけそうになる。 「ふざけてん […]

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仕入屋錠前屋45 傷を抱えた善 6

「っらぁ!!!」  気合とともに、片手で掴んだパーカーの頭を壁に打ち付けた。勿論死ぬほどやってはいない。伊達に場数は踏んでいないし、すぐに終わっては意味がない。既に何箇所も赤黒く腫れ上がったパーカーの顔から血が流れ、 […]

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仕入屋錠前屋45 傷を抱えた善 5

「佐崎さん、今の人って桐原蓉子じゃないんですか」  岩倉杏子から電話が入り、依頼人が今から行くと言って来たのは翌日の夜だった。報酬を持ってきたという女を断る理由もなく、短い受け渡しの後走り出す車に頭を下げる。目撃した […]

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仕入屋錠前屋45 傷を抱えた善 4

 家族がどうのという話には些か食傷気味の哲は、服部が兄に何をやるのかそんなことはどうでもよかった。それでも秋野から預かった包みを受け取る服部の無邪気な笑顔を見て、男兄弟ならいてもよかったかも知れないと気紛れに思ってみ […]