untitled – TBC 11
言えばよかった。思っていることを、例え拙い言葉ででもいいから、全部。 小さな言い間違いや言葉の不足。すれ違いや誤解の原因なんて、多分ほとんどがそんなものなのだろう。数文字、単語ひとつを入れ替えただけで受け取る側の […]
untitled – TBC 10
「圭くんは私のこと大事にしてくれたって、ちゃんと分かってるよ。ごめんね」 陶子はそう言って顔を上げ、出て行った。今から半年ほど前の話になる。 桜澤は分かっていた。誰よりも、多分陶子その人よりも知っていた。 大事 […]
untitled – TBC 9
卑怯だと罵られても仕方ない。そう思って頼んだが、一ノ瀬は笑っただけだった。 「いいよ、俺は」 本当のところどうなのか勿論土屋には分からないが、少なくとも嫌ではないらしく、コーヒーカップを置いてスマホを取り出した。 […]
untitled – TBC 8
「あー、サクラ!」 給湯室の入り口に立っていた江田が馬鹿でかい声で廊下の向こうから歩いてきた桜澤を呼び、土屋と相原は反射的に江田と同じ方に目を向けた。 身体ごと向き直った相原と違って土屋は肩越しだったが──咄嗟の […]
untitled – TBC 7
「どうしたの、突然」 ドアを開けた一ノ瀬は膝の抜けたグレイのスウェットパンツに、襟元が伸びプリントが色褪せたTシャツという、びっくりするくらいよくある部屋着姿だった。自宅にいて普段どおりびしっとしていたら驚くが、な […]
untitled – TBC 6
実際の時間にしたらほんの数秒だったのかもしれないが、土屋の感覚としては結構な時間が経っていた。不意に頭に先輩社員の男前面が浮かび、それが「イチノセサン」と繋がって、土屋は思わず腰を浮かせかけた。 「何──? ちょっ […]
untitled – TBC 5
桜澤の新しい住まいは以前のマンションよりやや駅よりの物件だった。真新しいというほどでもないが、築年数は十年以下と思しき独身者用の低層マンションで、部屋数も多くなさそうだった。以前はドアの前までは誰でも行ける物件だっ […]
untitled – TBC 4
「いいけど……」 会議から戻ったところで偶然つかまえた桜澤に飲みに行かないか、と声をかけると、桜澤は数秒躊躇った。二人きりだということに抵抗があるのかと思ったら、そうではなかったらしい。 「俺ちょっと先に出ててもい […]
untitled – TBC 3
独身に戻った桜澤と会う機会は当然ながら増えた。飲みに誘っても来ないということがなくなったからだ。 噛み癖が出るまで酔うことは相変わらずないものの、家で待つ人がいないからか桜澤の酒量も独身時代のそれに近くなり、そう […]
untitled – TBC 2
「おはよう」 喫煙所から戻り、自販機でペットボトルを買っていたら後ろから声をかけられた。 「……おはよう」 「何だよ?」 土屋の凝視に、桜澤は眉を寄せた。 「買ったなら退けよ。邪魔」 昔だったら体当たりでぐいぐ […]