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仕入屋錠前屋40 世界でいちばん卑怯な男 1

「佐崎!」  その声が誰だか一瞬分からなかった。  要は自分のいい加減さと物覚えの悪さが敗因なのだが、それでもその時一緒にいた川端に腹が立つのはあまりに自分勝手だろうか。  一瞬後、さっさと歩き去ろうとした哲の後ろで […]

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仕入屋錠前屋39 癒される夜 6

「なんか、若返りましたね、佐崎さん」  服部はそう言って哲の周りをぱたぱたと一周した。  勤め先の居酒屋のアルバイトである服部は、見かけは今時の若者そのものでありながら、よく躾けられた青年だ。時々酷く無邪気ところを見 […]

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仕入屋錠前屋39 癒される夜 5

 指の力の強さは、その長さに比例するのだろうか。秋野に力の限り腕を掴まれると、いつもそう思う。遠慮会釈なく締め付けてくる指は時折肉の薄い骨ばった手首に痣を残し、それは酷く哲を苛立たせる。  ぬるりと滑る哲自身に触れな […]

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仕入屋錠前屋39 癒される夜 4

 秋野がスチールキャビネットから持ち出した書類は、その会社の営業伝票の一部だった。依頼主はその会社の元社員で、営業部の伝票操作を内部告発しようとしていたらしい。仕入先と組んで架空伝票発行を繰り返していたギャンブル好き […]

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仕入屋錠前屋39 癒される夜 3

「おーおー暫く見ないうちにでかくなって」 「なるわけねえだろうが」  ご機嫌なキツネ顔に向けて哲が吐き出した冷たい台詞は、しかし敢え無く無視されてその辺の床に転がった。 「いやいや久し振りだねえ、元気にしてたか、坊主 […]

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仕入屋錠前屋39 癒される夜 2

「お前、いっそナカジマの所に世話になればいいんじゃないのか」  にやにやと頬を歪める秋野の脛を蹴っ飛ばしながら、哲は口の中で文句を言った。いつもならここで七色の罵声が飛び出すところだが、今は秋野とは比べ物にならないく […]

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仕入屋錠前屋39 癒される夜 1

 平日の昼間、それでもその通りは人出が多い。学生やら主婦やら、哲のように得体の知れない職業の男やら、とにかく切れ目なく人は流れ、気を抜けば誰かの肩に押され、足でも踏まれそうな人口密度だった。  哲は足早な人の流れから […]

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仕入屋錠前屋37 妥協案

 眠れない。  それは初めてではないが馴染みと言うには久々の感覚で、忘れかけた頃にやってくる。  それにしたって随分ご無沙汰で、哲がそれを思い出すのは多分三年振りにはなるだろうか。前は確か祖父が亡くなる前後だったから […]