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仕入屋錠前屋52 うそつきの挨拶 2

「それにしてもよ、マフィアって」  哲のキーボードを叩く指に、秋野は半ば呆れ、半ば感心して息を吐いた。  パソコンなんかほとんど触ったこともないと胸を張っていた錠前屋は、少しばかり教えただけでブラインドタッチを覚えて […]

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仕入屋錠前屋52 うそつきの挨拶 1

 哲にはしっくりしない女だと思った。  そうでなければ女連れの知り合いにいちいち声を掛けたりはしないし、実際自分がされても面倒なだけだ。野暮なことはしたくないしする気もないが、何となくひっかかって声を掛けた。 「哲? […]

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仕入屋錠前屋51 あ、思い出した。

「あー、酷いな」 「すっげえな。スコールってのか、こういうの。傘もあんまり意味ねえな」 「まったく、熱帯じゃあるまいし。足がびしょ濡れだ」  秋野は濡れて黒っぽく色が変わったサンダルから足を抜き、顔をしかめる。 「も […]

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仕入屋錠前屋49 now and then

「おい」  哲の低い声が耳朶を打ち、秋野は不意に我に返った。暗がりの中、哲の顔が滲んで見える。光源のないせいかと思ったが、頬の冷たさで涙のせいだと自覚した。 「目ぇ開けろ」  威嚇するような、低く押し殺した哲の声が、 […]

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仕入屋錠前屋48 朝は苦手。

 今日は酷く天気がいい。降り注ぐ太陽の光が看板に跳ね返って目を射し、アスファルトの照り返しが足元を焼く。  だから日陰は確かに歓迎だ。だが、折角の晴れた日に薄暗い映画館に籠ると言うのはどうだろうか。映画ファンならいい […]

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仕入屋錠前屋47 真夜中の邂逅 6

 人が一人死んでも、世の中は回る。言ってしまえば十人死んでも百人死んでも回るのだろう。普段と変わりなく仕事に出て、料理を作り、休憩に裏口に出る。そこに秋野の姿を見つけるのも、秋野を見るたびにざわめく自分の腹の底も普段 […]

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仕入屋錠前屋47 真夜中の邂逅 5

 樺山の女の部屋は築年数の経った今となってはそれほど高級とは言えないが、二十歳の一人暮らしの女が住むような物件でもなかった。最も今時の親は子に甘いと言うから、哲の感覚は既に古いのかも知れないが。秋野の運転でマンション […]