25

グリル・パルツァー的キスお題8 5-7

5. 瞼の上に憧憬のキス  そうそう、秋野ってさあ、昔からこうやって格好よくって。  女たちは声を上げて笑い、秋野に思い思いの一瞥をくれる。  それは、多少恨みがましい視線だったり、共犯者めいた色っぽい笑みだったり、 […]

25

グリル・パルツァー的キスお題8 1-4

1. 手の上に尊敬のキス 「壊せばいいんじゃねえの?」 「開けた事がばれるとまずいんだと」  秋野は、サムソナイトの二輪キャスターのスーツケースに眼を向け、肩を竦めてみせた。黒く光った表面が、哲には昆虫の背中に見える […]

25

歪んだ道筋

「おはようございます。中嶋さん、鮭と鯖とどっちがいいですか」 「……さば」 「はい」  起きぬけの朦朧とした頭で、中嶋は反射的にそう答えた。何で遠山が朝からここにいるのか。  確かに、万が一に備えて合鍵は渡してあるが […]

25

999

「999を二乗すんだろ」  哲の低い声がそう呟く。 「そうすっと、998001になんのな。で、998足す001……つーか、1、は999」 「へえ」  秋野は哲の首筋に顔を埋めながらそう返した。 「聞いてんのかこら」 […]

25

梅雨と禁煙

 じっとりと湿った空気が部屋の隅に澱んでいる気がしてならない。クーラーは使いすぎると体が冷えるからあまり好きではないが、さすがにこれだけ暑いと使わないというわけにもいかない。窓を開けて凌げるものならそうしたいが、生憎 […]

25

冷気にいかづち

 聞こえてくるのは、どうやら罵声だ。  馬鹿とか死ねとかお定まりの台詞のほかに、一遍去勢してこいとかお前の頭はスイカと変わんねえ密度かとか、様々なものが散りばめられていて面白い。  今時ドアホンでもない旧式のチャイム […]

25

洗濯機と猫。

「何してるんだ」  哲は、洗濯機の前に立っていた。  全自動洗濯機の折り畳み式の蓋を開けたまま、洗濯機の縁を両手で握り締めて中を覗き込んでいる。 「哲?」  こちらを一瞥した顔はいつもと変わりない。返事はなく、戻され […]

25

欺いた手の切っ先にあるもの

「ヤスダが死んだ」  一瞬何のことか分からず、持っていた煙草から流れる煙の行方を目で追った。ふわりと舞い上がり、自重に耐えかねるように崩れ落ちるそれは、絡み合った蜘蛛の糸のようにも見える。蜘蛛の糸というのは芥川だった […]

24

沁みる欲

 後から聞いた話では、男がアイーダに到着したのは秋野と哲がそこに着く、十分くらい前だったと言うことだ。  以前にエリと付き合っていたフリーのライターは、知り合いの経営するラブホテルの客を隠し撮り、それをネタにせこい強 […]

24

2007年 お雛様仕入屋錠前屋

「……雛人形って気持ち悪ぃよな。こんなの飾って有難がる女の気持ちが分かんねえ」  長持、というのだろうか。長い桐の箱の蓋を持ち上げ、哲は思わずそう呟いた。  箱の中には薄紙に包まれた古い雛人形が一揃い入っている。元々 […]