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不可侵の対価

「大丈夫か?」  ドアが開くなり哲は言い、眉を寄せて真菜の包帯を巻いた右手を睨んだ。正確にはただ見ただけなのかも知れないが、知らない人が見たら間違いなく睨んでいると思うだろう。 「大丈夫だよ」  来客用のスリッパを揃 […]

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浅からぬ縁(えにし) 

「あのね、前世で平安美男だったって言われた!」 「……何だ、そりゃ」  仙田の笑顔を呆れた顔で見ながら哲は言い、こいつを何とかしてくれと言いたげに秋野を見た。しかし、見られたところでどうしようもないから、秋野は哲から […]

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仕入屋錠前屋と犬

 快晴の日曜。  哲がペット用のトイレとペットシーツ、そしてピンクの服を着てピンクのリードをつけた十四歳のポメラニアンを小脇に抱えて秋野の部屋を足でノックしたのには訳がある。  もっとも、理由もなく取るような行動では […]

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2010-2011 年末年始仕入屋錠前屋

 「見つけたわよ!」  コンビニで煙草を買い、外に出た瞬間だった。  でかい声に、哲だけでなく通行人が一様にそちらに目を向ける。  そこには、腰に手を当てたでかい女装の男が仁王立ちになっていた。通行人はあんぐりと口を […]

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2010 お盆仕入屋錠前屋

「お願いがあるんだが」  ほとんど無意識に近い状態で通話を終わらせようとした哲は、ボタンに触れるか触れないかの距離で、指先を静止させた。  電話の相手は仕入屋である。  こいつからの着信の場合、最初の一回は出ないか切 […]

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2009-2010 年末年始仕入屋錠前屋

 何も年末に当たらなくてもいいんじゃねえか、と自分の身体に文句を垂れつつ、哲は缶を持ち上げビールを飲み干した。  数年に一遍襲ってくる不眠が、何故か年末も押し迫った今頃やってきたのである。  どうせなら忙しい忘年会シ […]

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さあ、裁いて見せろ

 それが哲だと気付いたのは、本当に偶然だった。  たまたま通り過ぎた店のガラス張りの壁際、道路から見えるところに哲はいた。だが、秋野は丁度来たメールを読むのに携帯に目を落としたままで、そのままなら気付かず行き過ぎただ […]

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それが真実ならいらない。

秋野の削げた頬を伝い、こめかみから流れた汗が顎から落ちた。  ぽたぽた落ちる、という表現をよく聞くし、自分でも使うことがある。雨や水滴なら、トタン屋根やシンクに当たる音を聞いたことがある。しかし、よく考えたら、ぽたぽ […]

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身ひとつで

「お前今どこにいんの」 「何時だと思ってるんだ」  昼間の電話は、無視しようと思えば幾らでも出来る。  だが、不思議なもので、眠っているときに鳴っている電話というものは、反射的に取ってしまう。考える暇も何もない。気が […]

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グリル・パルツァー的キスお題8 8

8. その他に狂気のキス 「そういえば、おばちゃん駆除したぜ」  弘瀬は自分の身体に腕を回し、寒い寒いと言う間に思い出したようにそう言った。  吹き付ける風が電信柱に括り付けられたタテカンを揺さぶって、物寂しげな音を […]