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その棘は誰のもの?

「似合わないことこの上ないな……」  思わず大きな溜息を吐いてしまったのは、仕方がない。  似合わないだろうと予想してはいたが、まさかここまでとは思わなかった。 「俺のせいか」  不機嫌な顔で睨まれても、首を横に振る […]

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昨日が癒えない

 ここのところの緊張が、肩の辺りにまとわりついている気がする。秋野は歯ブラシに歯磨き粉を絞り出しながら、溜息を吐いた。  このふた月で揃えなければならなかった品物はどれも合法的には手に入らず、入ったとしても依頼人が望 […]

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鳥籠をノックして

「おおぉらあ!!」  うるさい、と呟き、両手で耳を塞ぐ。  狭いプレハブの中で、腹の底から吼えられたら耳が痛い。  凶悪な笑顔、というのがこの世にあるのだとしたら、あの顔は正にそれだ。楽しくて仕方ないという表情であり […]

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不倶戴天ラブソング

 家電量販店のフロアはやたらと蛍光灯が多かった。  真っ昼間だが窓がなくて暗い店内を人工の光が照らし、客の顔を不自然に白っぽく、飾られた家電製品を必要以上に無機的に見せていた。  どれもこれも未来的なフォルムは、果た […]

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本音なんか死んでも言わない

「何聴いてるんだ」  イヤホンのコードを軽く引っ張ると、簡単に抜けた。哲は嫌そうな顔をして、片方のイヤホンをぶら下げたまま秋野の顔を睨みつけた。 「引っ張んじゃねえ」 「垂れてるぞ、耳から」 「なんか汚ねえもんが出て […]

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なくした代わりに手に入れたもの

「何だ、どうした」 「はあ? 何が」  哲は何を言われているのか分からない、という顔をして秋野を見返した。 「何がって、お前」 「だから、何だっつってんだろ」  秋野が手を伸ばして開けた助手席のドアをぐいと引き、哲は […]

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揃いの傷跡

「お帰り」  用事を済ませて夕方部屋に戻ったら、部屋の真ん中に秋野がいた。  哲は大きく舌打ちし、靴を蹴り脱ぐ。スニーカーが秋野の靴の上に乗り上げたような気がしたが、知ったことではない。 「何でいんだよ、てめえが」 […]

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それはひどく単純な、

 午前十時三十八分  くそ面白くねえ夢を見て目が覚めた。  よく覚えてねえが、夢の中で俺は高校に通っていて、数学のテストを受けていた。  教室に生徒は俺一人で、試験監督が俺の周りをずらりと取り囲んでいる。数十人いよう […]

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捏造コンセンサス

 欲望に関して、秋野と意見の一致を見ることはまずないと言っていい。  大体、秋野がその気になるのは哲が乗り気でないときが断然多い。哲が乗り気になること自体非常に稀だというのもあるが、そもそも秋野は哲の不機嫌な顔を見る […]

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吐いて棄てるほどのリスク

 AVIREXのキャップに押し込まれた髪はセットされておらず、ジーンズは間違いなく男物。グリーンとオレンジのチェックのシャツも恐らく男物だろう。 「……」  何と言ったものか、口を開きあぐねて、哲は煙草を吸い込んだ。 […]