本音なんか死んでも言わない
「何聴いてるんだ」 イヤホンのコードを軽く引っ張ると、簡単に抜けた。哲は嫌そうな顔をして、片方のイヤホンをぶら下げたまま秋野の顔を睨みつけた。 「引っ張んじゃねえ」 「垂れてるぞ、耳から」 「なんか汚ねえもんが出て […]
なくした代わりに手に入れたもの
「何だ、どうした」 「はあ? 何が」 哲は何を言われているのか分からない、という顔をして秋野を見返した。 「何がって、お前」 「だから、何だっつってんだろ」 秋野が手を伸ばして開けた助手席のドアをぐいと引き、哲は […]
それはひどく単純な、
午前十時三十八分 くそ面白くねえ夢を見て目が覚めた。 よく覚えてねえが、夢の中で俺は高校に通っていて、数学のテストを受けていた。 教室に生徒は俺一人で、試験監督が俺の周りをずらりと取り囲んでいる。数十人いよう […]
吐いて棄てるほどのリスク
AVIREXのキャップに押し込まれた髪はセットされておらず、ジーンズは間違いなく男物。グリーンとオレンジのチェックのシャツも恐らく男物だろう。 「……」 何と言ったものか、口を開きあぐねて、哲は煙草を吸い込んだ。 […]