仕入屋錠前屋20 その手で引き金を 4
秋野が使う業者には色々いて、稲盛のように普通の商売をしていながらも便利なやつから、上から下まで怪しげなやつもいる。それらの業者や依頼人、単なる知り合いまで。人脈を駆使した秋野は、難なく岡本伸一に関する話を集めてきた […]
仕入屋錠前屋20 その手で引き金を 3
敏史は狭いアパートの部屋で膝を抱えていた。 同じ学部の稲盛浩介が教えてくれた男──色々なものを手に入れてくれるという男は、低い声で、敏史の頼んだ仕事は断ると告げた。電話越しに聞く男の声は穏やかで、優しげですらあっ […]
仕入屋錠前屋20 その手で引き金を 2
「申し訳ないが、引き受けられない」 秋野は電話越の向こうの依頼人にそう告げた。 微かな息遣いの背後から賑やかなBGMと複数の笑い声が聞こえてくる。電話のそばにはマナこと女装した耀司がいて、依頼人を見守っているはず […]
仕入屋錠前屋20 その手で引き金を 1
「何だってえ?」 柄の悪い声が厨房まで響いてきて、哲はちょうど洗い終えた手を布巾で軽く拭った。店主が客を宥めようとしているのが聞こえてくる。 「いや、お客さん、そんなカッカしないでさ。他の酒ならありますから——」 […]
仕入屋錠前屋19 静まれ心臓 2
「ごめんね、てっちゃん」 寛子はベージュのワンピースを着ていた。取り立てて地味でも派手でもないシンプルなデザインだ。手には白いコートを持っている。 いい女ではあるのだが、人の顔色を窺うような上目遣いが気になるとこ […]
仕入屋錠前屋19 静まれ心臓 1
はじめて開けた錠がなんだったか、哲はいまいちよく覚えていない。 だが、よそ様の家の錠でなかったことだけは確かだ。哲に解錠を教えてくれた祖父も錠と名のつくものを開けるのが大好きだったが、玄関だけは嫌がったからだ。 […]
仕入屋錠前屋18 信じられないほど矛盾している
珍しく雪が積もった。 例年、積雪があると例えそれが数センチでもJRや新幹線が止まる。ニュースは交通渋滞の状況やどこの列車が何分遅れという話題ばかりになり、画面は道端で転ぶ年寄りや慣れない雪かきに勤しむ住民、溜息を […]
仕入屋錠前屋17 プラズマ邂逅 2
哲が扉を開けたら、そこには秋野が立っていた。 昼に百貨店前で待ち合わせ、結局すぐに別れて半日。昔の恋人と積もる話があったのか、それともあのまま物別れに終わったかは、見た目だけではわからない。 基本的に秋野の色恋 […]
仕入屋錠前屋17 プラズマ邂逅 1
偶然というのは恐ろしい。後に身をもって知ることになるが、今この瞬間、予知能力があるわけでもない哲がそれを知るはずもなかった。 哲は吹きつける風の冷たさに首を竦めながら、雑踏の中に立っていた。普段あまり足を向けるこ […]
仕入屋錠前屋16 飛んでいく
ここ最近、手首が痛い。 哲の素人診断では腱鞘炎になりかけているのではないかと思うのだが、病院に行ったわけではないから本当のところは分からない。だが、原因ははっきりしている。キャベツの千切りだ。 つい先日、居酒屋 […]