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17 中二階の手すり、錆の……

 久しぶりに秋野を怒らせた。  虎野郎をイラつかせるのは結構楽しい。いや、嫌がる顔を見るのは至上の喜びだと言ってもいい。  だが、滅多に腹を立てない代わりに本気で怒らせたらやばいのは知っている。何せ内臓に刺さったりし […]

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16 風邪気味

 秋野が部屋に戻ると、ソファの上に布の塊が乗っかっていた。  近づいて見てみると確かにその通りなのだが、塊には中身があった。 「何をやってるんだ、お前は」  布の正体は薄手の毛布だった。薄手と言ってもダブルサイズなの […]

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15 話は少し戻りまして、続き

「……服だけっつったってな……」  そう呟いて、哲は暫し途方に暮れた。  建て替えられる物件に入居しないことを改めて告げると、川端は当然だろうな、という顔で頷いた。 「オートロックだからな」  川端は祖父英治の知人の […]

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14 話は少し戻ります

 その日は確か土曜だった。  覚えているのは、前の日が忙しかったからだ。給料日の金曜日で気分が浮き立った客が押し寄せ、店はいつになく混み合った。哲は疲れ切って帰宅し飯も食わずに布団に潜り込んで翌日の昼まで眠ったのだが […]

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13 家族

「なあ」 「ああ?」  銜え煙草で皿を洗いながら、哲は地を這うような低音で返事を寄越した。別に不機嫌なわけではない。哲はこれが常態だ。 「挨拶したほうがいいかな」  哲が洗った皿を隣で拭きつつ、秋野はそう口にした。哲 […]

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12 辞書

「今気づいたんだけどよ」  片手に煙草、片手にピックを持った錠前屋が、ソファで本を読んでいた秋野の前に立ってそう言った。  辞書のように分厚い本を持っていたから秋野の片手は塞がっている。空いている手で腰を掴んで引き寄 […]

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11 君の対応は

「なあ、女と身体が入れ替わったら、とか思うことあるか?」  ソファの上でスマートフォンの画面を眺めていた哲が突然そう訊いてきた。  階下から上がってきたところでわけの分からないことを質問され、秋野は面食らって立ち止ま […]

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10 お掃除のお兄さん

 鍵を開けてドアを開けたら、目の前にえらく長身の見知らぬ男が立っていた。  哲は、手と足とどっちを出すかコンマ五秒くらい悩んで結局止めた。遠慮したわけでも男が誰か分かったわけでもなかったが、右手に雑巾、左手に洗剤のボ […]

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09 お部屋探し

「頼みがあんだけど」 外から戻って来た哲は携帯の液晶画面に目を落としたまま煙草を銜え、ソファに脚を伸ばして座っていた秋野には目もくれずそう宣った。 どう見ても人に物を頼むような態度ではなかったが、今更そんなことで驚き […]

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08 いないかもしれない

 哲がドアを開けると、室内は真っ暗だった。 「……いねえのか」  照明は間接照明を含め色々あるが、なにひとつ点いていない。外を歩いてきて暗さに目が慣れていた哲は、そのまま扉を閉めて施錠しソファに上着を放り投げた。   […]