仕入屋錠前屋と開かずの小箱
目が覚めたら目の前に哲の寝顔があった。 半分覚醒、半分眠ったままの秋野の頭の中を、色々なことがゆるゆると流れていく。 どうして哲がここにいるのだろうか。昨晩、秋野がベッドに入ったときには間違いなくいなかった。そ […]
34 あたたかくして、食って寝ろ
一週間で戻るつもりが十日、二週間と仕事が延び、十七日目にして秋野はようやく自分の住まいに辿りついた。 自分が責任を負う荷の手配だけなら予定どおり一週間で済んでいた。それなのに、依頼人の手違いから発生した諸々の問題 […]
仕入屋錠前屋とハロウィン
ゾンビ、魔女、ミイラ、吸血鬼、幽霊、狼男── 哲は周囲を見回した。様々な仮装をした客がひしめいている。その間を縫って食事や飲み物を出しているのは全員黒いスーツにサングラスの男たちで、この格好が店員の目印らしかった […]
33 幸せ 服部Ver.
ある晴れた平日の午後だった。 俺は客先での打ち合わせを終えて、取引先の事務所に寄ろうと中道を通っていた。 「あ、服部です。お世話になっております──はい、はい。あと五分くらいでお伺いしますので。では、後ほど」 […]
仕入屋錠前屋とクスリ
哲はベッドに横たわっていた。 自分の部屋でないことは目が覚めてすぐ気づいたが、頭が水の中に浸かっているような感じがして、どこにいるのか分からなかった。空調の音が妙に耳につく。身じろぎしたら、糊の効いた寝具が肌に当 […]
32 コンビニスイーツ
「なあ、これ食わねえ?」 哲が秋野の膝の上に置いたのは、透明なプラスチック容器に入ったコンビニスイーツだった。黒糖わらび餅なんたらという商品名の入ったシールが貼ってある。名前のとおり、黒っぽいゼリー状のものの上にク […]
31 お日様の匂い、洗濯物
これは幻だろうか。 秋野は困惑し、子供がするようにぎゅっと目を閉じた。確かに疲れてはいる。仕事で数週間留守にしていたからだ。哲に伝えた予定より数日遅く戻ったのだが、幻覚を見るほどのひどい疲労でもない。 もう一度 […]