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浴衣

 その日は季節外れの真夏日だった。暦の上では秋だというのに、ここ二日ほどはまるで季節が戻ったように気温が高い。温暖化の影響なのか、台風のせいかなのかは分からない。  そんな日に限って現場は全面ガラス張り。西日がもろに […]

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26 幸せ

「何でって──アパートが取り壊しになっちまったから」  哲がそう言うと、エリは「えーっ!」と声を上げた。 「そんな理由!?」 「そんな理由ってお前な」 「だって!」  エリは手酌で冷酒を注ぎ足し、ガラスの猪口を摘み上 […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 19

 トイレットペーパーを抱えててもいい男だから頭にくる。  俺に睨みつけられた嘉瀬さんは、俺の渾身のガン付けに何故かだらしなくにやにやした。 「何笑ってんですか」 「いや、何でもねえよ」  片手にトイレットペーパーのパ […]

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積年の切れ端

 哲らしいと言えばらしいし、らしくないと言えばらしくない。  どうでもいいことが繰り返し頭に浮かび、いい加減嫌になって溜息を吐いた。まったく、感情というか脳というか、何でもいいが頭というのは御し難い。精密機械と同じで […]

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2019-2020 年末年始仕入屋錠前屋

「てっちゃん……」 「気にすんな、噛みつかねえから」  ちらちらと背後に視線を向ける男に、哲は溜息とともにそう伝えた。  嘘ではない。哲に対しては息をするように噛みついたりするが、少なくとも哲の見ているところで食い物 […]