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その笑顔は神か悪魔か幻か 13

「おお、何というか、壮観……ですね?」 「何で疑問形なんだ」  嘉瀬さんはそう言って眉を吊り上げ、銜えた煙草の灰をシンクのなかにゆっくり落とした。  エプロンの新妻が料理を作って待っている。男の夢だ。  だが、俺より […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 12-4

「仲直り、しました?」  電話の向こうから保奈美ちゃんの明るい声が聞こえた。どこかの地下鉄駅にいるらしく、構内アナウンスと、人のざわめきが背後に聞こえる。 「あ、うん」  嘉瀬さんは予定通り出張中。保奈美ちゃんとは出 […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 12-3

 何で一日に何回もここに立たなきゃならないんだろう。そう思いながら、俺は新しい携帯を取り出した。  目の前に見えるガラスの向こう、マンションのエントランスはまるでホテルのロビーのようだ。ガラスの向こうには大きな白いソ […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 12-2

「何やってるんですか!!」  大きな声に振り返ると保奈美ちゃんが立っていて、目を見開いて俺の足元を見つめていた。  行き交う人がちらりと俺の足元に目をやって、無関心に通り過ぎていく。シルバーの携帯はバッテリーカバーが […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 12-1

「…………っ」  絶句、という言葉をここまで理解したのは、多分生まれて初めてのことではなかろうか。  口がぱくぱくする、というありふれた表現を体現しつつ、俺は目玉が落ちそうなくらい目を見開いた。先人の知恵というか、い […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 11

「お前、何で前の職場辞めたんだっけ」  確か、佐宗が転職してきて半年が過ぎた頃ではなかっただろうか。  今までまるで気にしたこともなかったそんなことを訊いたのは、ちょっとした思いつきにすぎなかった。そこそこ有名なおば […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 10

 切れた携帯電話を三秒見つめ、俺は思わずクソ、と呟いた。 「誰に電話してたんですか?」  笑いを含んだ声が背後からそう訊ねた。分かっているのに訊いている口ぶりだった。携帯を閉じてポケットに突っ込みながら、俺はグラスを […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 9

 ダンボールで出来た小箱が一斉に落下し、保奈美ちゃんの歓声が上がった。 「残念ですー、ぶちょー!」 「マジかよ」  嘉瀬さんが舌打ちし、隣の沖田さんがまあまあ、と嘉瀬さんの肩を叩いた。  第二営業部の少々早めの忘年会 […]