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knowing 3

 ああ、なんてことだ。原田は心底そう思った。  今までの人生、逆境を乗り越えてこそ成長があると思ってきた。勿論自ら喜んで飛び込みはしないが、そういう状況に置かれることがあれば文句は言わず、ひたすら立ち向かってきた。 […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 20

「一週間の在宅勤務?」  鸚鵡返しした俺に、嘉瀬さんは頷いた。 「そうだ。つーか佐宗お前、声がひっくり返ってるぞ」 「いや、だって──」 「だっても何もねえ」 「どうやって営業すんです!」  思わず言うと、嘉瀬さんは […]

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浴衣

 その日は季節外れの真夏日だった。暦の上では秋だというのに、ここ二日ほどはまるで季節が戻ったように気温が高い。温暖化の影響なのか、台風のせいかなのかは分からない。  そんな日に限って現場は全面ガラス張り。西日がもろに […]

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その笑顔は神か悪魔か幻か 19

 トイレットペーパーを抱えててもいい男だから頭にくる。  俺に睨みつけられた嘉瀬さんは、俺の渾身のガン付けに何故かだらしなくにやにやした。 「何笑ってんですか」 「いや、何でもねえよ」  片手にトイレットペーパーのパ […]

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ユズキクリーンサービス 10-2

 押し込められた車はタクシーとしてもたまに見かけるミニバンで、色は白。ぴかぴかでもなければ薄汚れてもいない。スモークガラスにもなっていないので、却って怪しさは皆無だった。 「新海さん、大丈夫っすか!」  運転席から振 […]

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ユズキクリーンサービス 10-1

「……お帰り」  柚木は珍しく眠たげに目を瞬き、枕に頬をつけたまま新海を見上げた。  何でここにいるんだとか、何でお前の部屋でもないのにお帰りなのだとか、そんなことは別にどうでもよかった。 「ただいま」  囁きながら […]

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リビングルーム

 うなじに食いつきながら名前を呼ぶと、静は、震えながら甘ったるい声を漏らす。  だが、マゾっ気があるかというとそれは違って、やり過ぎると喜ぶどころかぶん殴られる。ついこの間うっかり力を入れ過ぎて流血させてしまった時は […]

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knowing 2

 ぼんやりしていたら突然顎を掴まれた。 「──何考えてんだ、和伊」 「別に……っ」  舌全体を擦り合わされるようにされ、ぬるりと滑るその感触に身体が震えた。投げ出されたままの和伊の指に指が絡みつく。忙しない呼吸の合間 […]

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ユズキクリーンサービス 9

 今日の現場はやたらと暑く、すべて終わる頃には、柚木は汗だくになっていた。  天気がよくて外気温が高かったせいもあるが、窓がでかかったせいもある。  リビングルームの南西面が上から下までのガラス張りになっていて、射し […]

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2018 ハロウィン

「Trick or treat!」  ドアの向こうから完全にネイティブの発音で決まり文句が聞こえてきたので、新海はパソコンから顔を上げ、声を張り上げた。 「開いてるから勝手に入れ。つーかハロウィンは明日じゃねえのか」 […]