その笑顔は神か悪魔か幻か くだらないおまけ

「みなさんこんにちはっ、高橋保奈美です! 今日は部長と佐宗さんにインタビュー企画でーす。頑張ります!」
「お前、仕事より張り切ってねぇか?」
「やだぁ、部長、そんなことないですよぉ~」
「そうか……? どうも声に常にない張りがあるような気がすっけどな」
「気のせいですー!」
「まあどっちでもいいけど」
「何だ結局どっちでもいいんじゃないですかぁ」
「うるせえなあ」
「佐宗さんも何か言ってくださいよ!」
「何だ、お前いたのか」
「いましたよ。あんたの目はガラス玉ですか」
「気配がねえから気付かなかったよ」
「部長、あんまりです~」
「保奈美ちゃん、嘉瀬さんは老眼だから」
「気配と老眼って関係あるんですか?」
「分んない」
「こら、人を勝手に老眼にすんな、W高橋」
「えーと、じゃあまずお名前から行きましょうか」
「高橋佐宗です」
「訊かなくても知ってんだろ」
「そういえば、私嘉瀬さんの下の名前知りません!」
「……保奈美ちゃん……」
「はい?」
「お前なあ、上司のフルネームも知らないのか」
「えーだって使わないんですもん~」
「……保奈美ちゃん、そういうのはちゃんと覚えなきゃ駄目だよ。うちの社長の名前言える?」
「えええええ~っと?」
「あー、後でいいよ、後で」
「はーい。じゃあ改めて、嘉瀬さんのお名前はっ」
「嘉瀬和紀」
「へえ~カズキさんですか~。カセカズキ。ちょっといいにくいですね」
「悪かったな」
「佐宗さん知ってました?」
「そりゃあ、上司の名前だから」
「何か若い名前ですね!」
「こら保奈美お前そりゃどういう意味だ? ボーナスの査定に響くぞ、その発言は」
「やだあ、冗談です! チョーお似合いです」
「チョーとか言うな」
「……和紀さん」
「……」
「あっ、部長微妙にうろたえてますねっ! 佐宗さんもっと呼んじゃって!」
「和紀さん?」
「……何なんだ、お前らはっ!」

「えーっと、好きな食べ物を訊いて来いって指令が出ています」
「どこからだよ」
「それは言えませんけど、仕入先です」
「賄賂の匂いが……」
「佐宗さん、しーっ!」
「俺は食いものにはつられんぞ、失礼な」
「まあまあ。お歳暮選びも大変なんですよ、きっと! じゃあ部長の好きな食べ物はっ。仕入先さんに配慮して安価なものでお願いします!」
「保奈美ちゃん、それ仕入先さんにすごく失礼」
「あれ? そうですか? でも嘉瀬さん好き嫌いなさそうですよね」
「ないな。強いて言えば餡が苦手。食えるけど」
「餡って大福とかの中に入ってる餡ですか?」
「そう」
「よく覚えておきます」
「忘れろよ」
「いーえ、記憶に刻みました」
「部長、嫌いなものはいいんですけどっ」

「さて、次は総務女子一同からの質問です! 佐宗さんは今、恋人がいますか?」
「何で佐宗だけなんだ」
「部長は訊くまでもないからだと思います~。総務女子は現実主義者の集団なんです。夢は見ないんです」
「……俺、今微妙に傷ついた気がする……保奈美ちゃん」
「えっ、何でですか?」
「だって、それって嘉瀬さんは高嶺の花だから俺みたいな道端の雑草でいいという——」
「馬鹿、卑下すんな」
「そうですよ、佐宗さんはかっこいいですよ! ね、部長」
「格好いいつーか可愛いけどな」
「男前ですよ! ステキです!」
「保奈美ちゃん……!」
「私の彼の次ですが!」
「保奈美、お前もう少し営業トーク学ばないとな。詰めが甘いんだよ。おい佐宗へこむな、俺がもらってやるから」
「結構です。断固遠慮します」
「つれねえなあ」
「部長本気で残念そう!」
「残念だからな」
「ていうか部長のつまらない冗談はどうでもいいんですけど、それで佐宗さん、恋人いますか?」
「どうでもいいのか、おい、保奈美。つまらないって言うな」
「……」
「佐宗さんってば~」
「いる、ような、いないような」
「何だお前それは」
「うるさいな、あんたに関係ないでしょうが」
「いや、あるね」
「え~どうしてですか、部長」
「部下のプライベート事情をある程度勘案してだな、こう、職場のメンタルケアというものがだね」
「あんた何言ってんですか」
「うるせえよ」
「佐宗さん、誤魔化さないでくださいね!」
「……います」
「そうなんだぁ~。総務女子一同がっかりです!」
「お前総務女子じゃねえだろ」
「代弁してるんですよ。え~佐宗さんの彼女ってどんな人ですかぁ、見たい見たい! 写真ないんですかあ」
「ないよ、写真なんか」
「つまんない!」
「や、もう俺の話はいいって」
「よくないですよ。すっごく気になります」
「俺も気になるなあ」
「佐宗さん、そんな怖い顔して部長を睨まないでくださいよ~。部長が喜ぶだけですよ!」
「……」
「……」
「え? どうしたんですか?」

「保奈美は馬鹿だけど時々核心突くから怖えな」
「俺物凄く疲れました」
「何で。あんなんで疲れてるようじゃまだまだだな、お前。精進しろよ」
「あんたねえ……」
「ところでお前のさっきのあれ、彼女描写は別の男と結婚するとか言う元カノか」
「——なんでそんなこと訊くんです」
「気になるからだよ」
「……」
「黙るなよ」
「だって、」
「だって何だよ」
「いいです」
「言いかけてやめんな、コラ」
「……」
「——何考えてんだ、お前。保奈美の前で正直に言えるわけねえだろう。んなことで怒りゃしねえぞ、俺は」
「はあ……」
「もっとも、元カノじゃなくて別の女の話だって言うんなら、また違うけどな」
「は?」
「なあ、俺の他に誰かいるのか?」
「ちょ、嘉瀬さん、近いです」
「目ぇ逸らすんじゃねえよ、佐宗」
「痛いんですけど。机が当た……嘉瀬さ」
「いるかいねえか、正直に言えよ」
「いませんよっ」
「ほんとに?」
「いませ、何考えてんですか、こんなとこで止めてください!」
「本当かな。黙ってりゃ別に分かんねえしなあ?」
「いないって言って……美穂は」
「俺の前で女の名前呼ぶな」
「あ……、」
「怒ってはいねえけど、嫉妬で死にそうだってのが分かんねえかなあ」
「——嘉瀬さん」
「……俺だけ見てろよ、なあ? 佐宗」