08

ドラゴンロード

 よく晴れた空の下、冬の分厚い服を脱いで薄着になった人々はどこか浮き立って見える。街路樹には新緑が芽吹き、軽やかに春風に揺れていた。  今日は平年よりだいぶ気温が高く、春というより初夏の陽気だ。雲一つない快晴。日差し […]

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積年の切れ端

 哲らしいと言えばらしいし、らしくないと言えばらしくない。  どうでもいいことが繰り返し頭に浮かび、いい加減嫌になって溜息を吐いた。まったく、感情というか脳というか、何でもいいが頭というのは御し難い。精密機械と同じで […]

04

叶うな、願うな 9

「なあおい、忘れたら何を忘れてるか分かんねえってよ!」  中二階のドアをがんがん蹴っ飛ばしながら喚いたら、嫌そうに顔をしかめた秋野が出てきた。眠ろうとしていたのか、適当な格好になっている。もっとも、適当な格好ではあっ […]

27

叶うな、願うな 8

 到着までそう長い時間はかからなかった。昼間なら電車移動の方が早そうだが、この時間はさすがに交通量も少ない。  ありふれた郊外の住宅地。並んでいる家屋を見ると住人は大半が高齢者、たまに売っ払われた土地があって子供世代 […]

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叶うな、願うな 7

「よう」  弘瀬はこれから飲みにでも行くような気安い挨拶を寄越した。もっとも弘瀬の生業──花屋ではない方──を考えれば、ただの不法侵入なんて散歩みたいなものなのだろうが。 「ん」  ほぼ唸り声、若干人の声が混じったよ […]

06

叶うな、願うな 6

 秋野がアイーダのママに何か用事があるとかいうので、アンヘルのところを出た秋野と哲はエリのところに寄った。別について行きたかったわけではないが、じゃあな、と踵を返しかけたら文字通り首根っこを捕まえて方向転換させられた […]

28

叶うな、願うな 5

「……名前を変えるって?」 「はい」 「何なら顔も少しいじったらどうだ。瞼をちょっと変えるだけでも大分違うだろう」  アキという若い男は、翌日になってもどこにも行く気配がない響を見て怪訝な顔をし、アンヘルから話を聞い […]

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叶うな、願うな 4

「うお」  思わず出た声に、ドアを開けた男と秋野は同時に哲に顔を向けた。 「……あ、悪ぃ、何でもねえ」 「何だよ?」  秋野がこちらを向いて訊ねるので、哲は仕方なく口を開いた。 「いや、なんつーか親子みてえ」 「…… […]

15

叶うな、願うな 3

「どういうことだか……」  困惑する響の顔を暫く見つめた後、男は一旦部屋を出て、どこからか椅子を一脚持ってくるとそれに腰かけた。  ダイニングセットのひとつなのだろう。ダイニングセットが何かは分かるのに、そういう家具 […]

08

叶うな、願うな 2

 以前会ったときと随分印象が違うのは、髪型のせいだろう。あの時は前髪も襟足も長めで茶色く染めていた弘瀬の髪は、今はかなり短くなっていた。すっきりとした髪型のせいでほとんど別人に見える。色は欧米人の髪で言えばダークブロ […]