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零度の情熱 10

「呼んでねえぞ」 「呼ばれた記憶もないな」  一瞬前まで剥き出しにしていた獰猛な顔を引っ込めた秋野は、平素と変わらない悠然とした態度でナカジマの脇を通りすぎ、哲の前に立った。 「今日が最後だって言ってただろう。ちゃん […]

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零度の情熱 9

 店のドアが些かわざとらしく乱暴に開き、男が二人入ってきた。哲は二人の顔を見た途端「ああ……」と面倒くさそうな声を出してしまったが、幸い借金取りは、哲のうんざり顔には気づかなかった。 「お疲れ様っす!」  いまだ床に […]

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零度の情熱 8

「佐崎……うわ、血出てる!」  立ち上がった越智は哲が上に向けた掌と血がべったりついた床を見て声を上げた。  哲の掌には割れたグラスのかけらがいくつも食い込んでいた。下手に払うと埋まりそうだったから振ってみたらそこら […]

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零度の情熱 7

「よう、お疲れ」  越智が店に入ってきて、真っ直ぐカウンターに近寄ってきた。  越智の兄の店のバイトも今日が最後だ。越智は初日に会って以来顔を見せなかったが、昨晩のうちに明日は行くと連絡を寄越していた。  結局カクテ […]

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零度の情熱 6

 秋野がまた指輪を持って哲の部屋に現れたのは、居酒屋のバイトが終わってからだった。 「今日はあっちのバイトはないのか?」 「……ここに現れたっつーことは、ねえの知ってんだろうが」  肯定も否定もせず、秋野は靴を脱いで […]

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零度の情熱 5

 欲しい、欲しい、欲しい。  人の欲望には限りがない。食欲や睡眠欲は生きていくために必要だが、それだって、美味いものを食いたい、少しでもいい環境で眠りたいと、ただ手に入れれば満足するということもない。例えどんな味でも […]

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零度の情熱 4

「めちゃくちゃ助かる!」  越智は顔を輝かせて言うと、哲の手を取り、選挙運動中の政治家みたいにぶんぶん振り回した。 「マジで! ほんとありがとう!」 「つーか越智、手がもげる」 「もげねえだろ! 佐崎の手だぞ! 何人 […]

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零度の情熱 3

「半年くらい前にオープンした店だ」  秋野は煙草をふかしながら前髪を掻き上げた。そうするとライトが顔を照らし、目の色がごく薄い色に透けた。まるでガラス玉か、そうでなければ飴玉だ。口に入れたら腹を下すなと、意外によく考 […]

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零度の情熱 2

 仕事まで三時間もあったら持て余すと思ったが、体力お化けみたいな三十路野郎に散々弄ばれた結果、慌てて立ち食い蕎麦を啜るくらいの時間しか残らなかった。別にゆっくり優雅な飯の時間を求めているわけではないものの、それでもや […]

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零度の情熱 1

 秋野の前にあるのは、指輪だった。 「何だ、それ」  哲は秋野に軽く手を上げて去って行く男から目を逸らし、秋野の手元に視線を向けた。 「指輪」 「見りゃ分かる。そういう意味じゃねえ」  銀色の台に嵌まっているのは緑色 […]