仕入屋錠前屋55 縋り付くその手をいま振り払って 5
「アキ……」 部屋の真ん中に突っ立ったままのレイは、松葉杖をついていた。先ほど聞こえた床に硬いものが当たる音、あれはもしかしたら松葉杖の音だったのだろうか。アルミのそれは、昔よく目にした木製のものより随分スマートだ […]
仕入屋錠前屋55 縋り付くその手をいま振り払って 4
どこかで、もしかしたらと思ってはいたのだ。 よく眠れず、夜中に起き出し何度か電話をかけたが、やはり哲は出なかった。携帯電話会社の音声が、お客様のおかけになった電話は通話ができない状態だと何度も言い募る。仕舞いには […]
仕入屋錠前屋55 縋り付くその手をいま振り払って 3
哲と連絡が取れなくなったのは、翌日の昼だった。用事があって電話をしたが、携帯は電源が切れていた。 哲が秋野の電話に出ないのは、取り立てて珍しいことではない。虫の居所が悪いとか面倒だとか、気分にもよるし、忙しくても […]
仕入屋錠前屋55 縋り付くその手をいま振り払って 2
チハルが乱暴に吸殻を突っ込んだ灰皿から灰が舞い、テーブルの上に落ちる。 「灰飛ばすなよ」 誰かからそう声が上がり、チハルの刺々しい声がそれに被さった。 「うるせえな、どこの綺麗好きなババアだ、てめえ。気になるなら […]
仕入屋錠前屋55 縋り付くその手をいま振り払って 1
冷たい空気を吸い込むのは好きだ。 メンソールの煙草は好みではないが、感覚としてはあれに似ている。 そうでなければミントのガムを噛みながら煙草を吸うあの感じ。 喉を通り過ぎて体内へ、肺へと吸い込まれていく冷気は […]