avarice
残酷に空気を切り裂く鋭いリフ。
腹に響く重低音のリズム。
内臓を抉るようなざらついたギター。
太く豊かな声、不意に伸びる高音、耳元で囁く低音、しゃがれた叫び。
音の洪水。音の暴力。音の快楽。
苛々する。
興奮する。
夢中になる。
それ以外、何もかも、どうでもよくなる。
それ以外、何も要らない。貪欲に、ただ、それだけを。
お前と抱き合うのは、大音量の音楽を体で感じる、その行為に酷く似ている。
竜矢は、そう言って笑う。
狭い部屋の中に、ヴォーカルの声が溢れる。
いささか大きすぎる音量は、薄い壁を通して隣にも聞こえているに違いない。それでも隣が文句一つ言ってこないのは留守だからだ、と竜矢は言う。何の仕事をしているのか、お隣さんは昼夜逆転、この時間はいないらしい。
竜矢は、大音量で音楽をかけた中でするのを好む。確かに、多少声が漏れようが——竜矢は滅多に声を上げないが——聞こえないという利点はある。
あるものの。
竜矢の好きな音楽はいい雰囲気とは程遠い。いわゆるヘヴィロックと言われるそれらは、抱き合いながら聴くには好もしいとは言いかねる。少なくとも、自分には。
それでも、竜矢の気持ちが分からないわけではない。
血が沸騰するような、指の先まで痺れるような。確かにそれは刺激的だ。
まるで泣いた後のように目の縁を赤くした竜矢が、首を反らして唾を飲み込んだ。
喉仏の上下と、短く、素早く吸った後に吐き出される掠れた吐息。やっとのことで母音になったであろうその息は、音楽にかき消されて聞こえない。
「竜矢」
呼ぶ声も、我を失った竜矢の耳には届かない。多分、鼓膜に響くのは、竜矢の好きなベースの低音、ヴォーカルの唸り。
「……竜」
腹の上の竜矢に手を伸ばす。脇腹を引き寄せると、抵抗するように腹筋に力がこもった。焦点を失いながら、それでも睨みつける目の強さ。
リズムギターの音のうねりと強弱に合わせるかのようにぶれる視線と揺れる腰に、一気に頭に血が昇る。
無理矢理上体を起こして繋がったまま組み敷くと、喉の奥で竜矢が笑った。笑い声も、聞こえない。ヴォーカルのシャウトに被さる竜矢の喘ぎに、頭の中の何かが切れる。
衝動のままに、頭を抱え込んできつく抱く。意味などまるで分からない英語の歌詞を、無意識に口ずさむ。音楽に合わせた律動に、耳元で、竜矢のしゃがれた声が上がった。
叫べ、歌え、手を差し伸べて乞い願え。いくらでも、貪欲に。
そのために俺はここにいる。