拍手お礼 Ver.13

Ver.13 秋野さんに聞け。

「俺ねー最近少し株が上がったみたいなんだよねー」
「セン? 何だ、現れるなり」
「お久し振りー。あのね、葛木がこの間のことどうもって。それで、よろしく言っておいてって」
「ふうん」
「ちょっとー興味なさそうな返事しないでよー!」
「ないんだよ」
「ひどっ!! 葛木ああ見えて滅茶苦茶可愛いんだよ?」
「どこが」
「あの洟垂れ小学生みたいなところが……」
「それは、可愛いって言うのか? お前、馬鹿のふりしてあんまり世話かけるなよ」
「ふりじゃないもーんだ。それよりさあ、今日は秋野さんに訊け企画なの」
「は?」
「平田も忘れてたわけじゃないんだけどねー。あの人馬鹿だからねー考えるの遅くってね」
「お前に言われたら終わりだな」
「さて、何を訊こうかなあ~」
「無視するな。どうせ下ネタなんだろう」
「だって、皆さんの期待に応えないとインタビュアーとしては失格じゃない」
「そうかね」
「ねーねー仕入屋さんってさあ、あんなに女のひとにもてるのに男がすきなの?」
「はぁ? 何言ってるんだ」
「だって、錠前屋さんとさ」
「俺はあれを好きだとか何だとか思ったことはないぞ。勿論他の男もだ」
「でも、してるじゃん」
「それとこれは別だ。十代のガキじゃあるまいし短絡的に過ぎるだろう」
「分ってるけどさ、でも俺に言わせれば少しも好意がない人となんか無理だしさあ、それって普通、みんなそうじゃないの。そんなしょっちゅうじゃなくってもさ……ねえ、一番最近したのいつ?」
「一昨日。ああ、日付で言えば昨日か」
「——うわあああああああああもう想像できません! あの錠前屋さんだよ!? もしかして可愛くなったりしちゃうわけ!? 昼と夜とは違うとか? うわー聞きたくない!」
「自分から訊いておいて何なんだ一体……」
「ああでも聞きたいこのジレンマ!!」
「どっちだよ」
「聞きたいかも」
「最初っから最後まであの調子でぎゃんぎゃん吠えっぱなしだ。可愛くなんかない。見りゃ分かるだろう」
「聞きたいですもっとこと細かに!!」
「大丈夫か、お前」
「や、やっぱり押し倒したらキスからですかっ」
「真面目に回答しなきゃならんのかこれ」
「もうどうしてそんな平然としてるのさー! つまんないよ!」
「キスっていうかな。耳か首か肩に噛み付くだろ。そしたら大概怒鳴りながら殴ってくるからな。それを押さえ込みながら服を脱がすっていうのは結構重労働でなあ」
「でも、結局は落ちるわけでしょ?」
「いや、最後までそんな感じ。いくときも怒鳴ってるぞ。いや、凄むっていうか威嚇するっていうか悪態ばら撒いてるっていうか、要するにうるさい」
「……なんか違う想像になってきた」
「多分違わないと思うが」
「そんな嫌なのに何で殴って逃げないんだろ、錠前屋さん。幾ら仕入屋さんが怖いって言ったって」
「俺は怖かないよ、失礼だね。別に本気で嫌じゃないんだろ」
「…………のろけなの?」
「違うよ」
「よっぽど弱いとこ知ってるとか? どこ弱いのあのひと」
「何で?」
「興味あるじゃん」
「やらんぞ」
「欲しくないよっ!! どっちが馬鹿!?」

 

「ヨアニス、お前、日本に来てるなら連絡くらい寄越せよな」
「忙しいんだよ。予想外に忙しくて、参ってるんだ」
「痩せたか?」
「激務でな。お前も何かやつれた気が……」
「苦労してるからねえ」
「よく言う。ところで、テツは?」
「相変わらず殺しても甦る勢いで健康凶暴そのものだ」
「化け物みたいに言うなよ」
「さして変わらん」
「……まあ、いいけどな。ところで、勝に会ったんだが」
「どこで?」
「空港で。何でも海外に性転換手術を受けに行く友達を見送った帰りだとか」
「何か生々しいな……」
「お前に会うって言ったら、訊いておいてくれって」
「何を」
「お前に色々訊く企画なんだろ? これ」
「ああ、時間の無駄だと思うんだけどねえ」
「で、下着」
「は?」
「下着の種類訊いておいてくれってさ」
「勝が?」
「勝が」
「知ってどうするんだ?」
「知らんよ。トランクスかボクサーかブリーフかビキニかだって」
「ボクサーだけど」
「あ、そう。後でメールしてやるか」
「何か、他に訊きたいことないのかね、あいつは」
「さあねえ。下手なこと訊いたら後が怖いからだろ」
「お前も遠路はるばる来てまで俺の下着か。ご苦労さまだな」
「諦めてるさ」

 

「男ばっかりで飽きた」
「あんた、人の顔見るなりそりゃないだろ」
「揃いも揃ってでかいなりの男ばかり続くんだ、眠くなる」
「ふうん? なあ、あんたの錠前屋は元気か?」
「あれは俺のじゃない、周一。しかし誰が来ても二言目にはあいつの話になるな」
「そりゃそうだろ、あんたの弱味なんだから」
「弱味っていうかなあ」
「違うのか」
「違わないような、違うような……」
「どっちだよ」
「さてねえ」
「じゃあさ、俺が誰かに錠前屋を標的に仕事を依頼されたとするだろ? 弘瀬、こいつを殺ってくれ、ってな具合に」
「ああ」
「で、俺は当然悩むわけ」
「何で」
「何が」
「何で悩むんだ」
「悩むだろ」
「そうか?」
「あんた人としてちょっとやばいよな、知ってたけど」
「そりゃどうも。それで?」
「まあいいか。で、職業倫理に……殺し屋にそんなもんねえけど、まああるとしてだな、それに反するけど俺は警告するわけな、そういう依頼を受けちゃったよ、と」
「ああ」
「そしたらあんた、錠前屋を守ろうと奔走するだろうが? それが弱味でなくて何よ」
「……奔走ねえ。するかどうか、何とも言えんなあ」
「おいおい」
「それより、目の前のお前の首をへし折った方が早いだろうな」
「……おっかねえな……。本気でやるだろ、あんた」
「ノーコメント」

 

「お前、俺に訊きたいことがあるのか」
「ねえよ。ねえけど、行けって言うからよ」
「誰が?」
「平田」
「普段言うこときかないくせに、こういう時だけ素直なんだな」
「馬鹿、喜んでこんなとこ来るか」
「そうなのか」
「ここから先が進まねえから何ヶ月も書けなかったんだってよ」
「今頃になったのはお前のせいか。そんなに嫌がることないだろうに」
「嫌じゃねえけど面倒くせえ。帰って寝てえ」
「質問しろよ、折角の機会なんだから」
「……訊きたいことがねえんだけどな」
「ひとつも?」
「ひとつも」
「そんなに俺に興味ないのか」
「知らなきゃ困ることは知ってるし」
「それ以外はどうでもいいってか」
「仰るとおり」
「寂しいねえ」
「ちっとも寂しくなさそうだけどな」
「そんなことないぞ。それに、質問しなきゃ終わっちまうだろうに」
「じゃあ、好きな女のタイプ」
「今適当に言っただろう」
「いや、知りてえ。知りたくて死にそう」
「まったく。まあ、いいけどな。あまり小さくて細いと壊しそうで苦手なんだよな。それなりに背丈があって、色っぽくて、頭のいい女が好きだ」
「お前、注文多くねえ?」
「注文じゃないよ。どんなのが好きかって訊かれたら、ってだけで、当て嵌まらなくても歓迎するぞ俺は。多香子は色っぽいってタイプじゃなかったし」
「よく覚えてねえけど、確かに普通だったかもな」
「ちなみに男はお前以外興味ない。次は?」
「一言余計だな。じゃあ好きな食い物は」
「別に……何でも食うけど。和洋中も、イタリアンもエスニックも」
「はいはい、女も、で、男は俺だけってんだろ。あと何訊けばいいんだ?」
「先に言うなよな」
「そうだ、お前さあ、学校行ってねえっつったよな」
「ああ、日本という国に俺は存在しないことになってるんで」
「勉強はどうしたのよ」
「家庭教師。尾山さんの知り合いの元教師っていう爺さんが小学校から高校の分までやってくれて、後は独学」
「その辺の大卒よりか余程物知ってるよな、お前」
「何も知らない出来ないじゃ生き残れんからな。俺は条件が悪すぎる。だから、十代のうちは悪さの傍ら本気で勉強したぞ」
「へえ。俺、未だに教科書見ると条件反射的に眠くなるけど」
「強制されてやるからじゃないのか」
「強制されないとやらねえしなあ」
「そうなのか」
「そうだろ? あと、無性に煙草が吸いたくなるしな。パブロフの犬」
「飯を前にして涎が出るってあれか」
「そうそう、俺を目の前にしたお前と同じだ」
「だから先に言うなってのに」
「俺もまあ似たようなもんだけどな。てめえを見るとイラつくから煙草吸いたくなるっつーとこが」
「強制されてるから?」
「強制してんのか」
「してないつもりだけどね」
「じゃあされてねえよ」
「ふうん。なあ哲、やっぱり犬かもな」
「は? 誰が。俺がか」
「違うよ、俺が」
「…………」
「何だよ、逃げるなよ。まだ何もしてないだろう」
「……涎は見えねえけど」
「見えないだけだ」
「おい、離せ馬鹿、煙草、」
「一昨日は満腹ってわけじゃなかったしな」
「てめえこの、くそ」
「なあ、どうして欲しい?」
「どうもされたくねえ!」
「まあそう言うなよ。ああ、これ俺に訊く企画か。俺が訊いちゃいかんよな」
「離れろ、馬鹿虎!!」
「哲、お前が訊いてくれないと、趣旨に反する」
「うるせえ、くたばれエロジジイ」
「哲」
「ああ分かった訊きゃいいんだろ!! どうしたいんだよ、俺を、くそったれ!!」
「決まってるだろう、馬鹿だね」